暑い夏の胎盤停滞は、その匂いと相まって、気分をげんなりとさせるものです。胎盤停滞の多くは、食欲不振から乳量の低下を起こし、第四胃変位やケトーシスの原因となります。また子宮感染から繁殖成績の低下につながります。
いまだ胎盤停滞の原因は、はっきりとしていませんが、その原因について少し考えてみたいと思います。
正常な胎盤の排出
正常な分娩では、胎子が娩出されたあと6時間程度で胎盤(後産)が排出されます。この時どのようなことが起こっているのでしょうか。
胎盤は胎子に栄養を運ぶ重要な器官であり、妊娠中はしっかりと母牛と胎子をつないでいますが、分娩予定が近づくと子宮から離れる準備が行われます。
胎子が娩出されると、子宮の胎盤付着部(子宮小丘)への白血球遊走と免疫応答が起こり、胎盤と子宮をつないでいたコラーゲンが分解され、更にオキシトシン、プロスタグランジンF2αなどのホルモンの影響を受けて子宮が収縮し、胎盤が排出されます。
このことから、胎盤の成熟が間に合わない早産や栄養不良の牛、分娩前からストレスを抱え免疫力の弱い牛、乳熱や難産で子宮の収縮力が落ちている牛では胎盤停滞が起きやすいといえます。それから双子を分娩した牛でも後産が残りやすいですね。
今後の治療へ期待
数年前、胎盤と子宮を結ぶコラーゲンを分解する酵素(コラゲナーゼ)を活性化する物質「オキソアラキドン酸」が発見されました。
まだ研究段階ですが、後産停滞を起こした牛に投与すると、投与後7時間以内に高い確率で後産の排出がみられたとする報告があります。今後の治療への応用が期待されています。
胎盤停滞の予防
後産停滞の予防には以下のようなことに注意が必要です。
- 乾乳期のセレンおよびビタミンEの給与(投与)
- 難産を予防する
- 清潔な牛床で分娩させる
- 分娩前のストレスを極力避ける
- 分娩前に低栄養とならないようにする
- 乳熱を予防する
- 適度な運動をさせる
胎盤停滞を起こした牛の約70%は子宮炎を併発し発熱します。食欲が落ちた牛、元気のない牛は体温測定を行い、熱があれば獣医を呼んで治療しましょう。暑い日には、細菌の増殖は速く、反対に牛の体力は落ちています。特に注意しましょう。