牛には多くの寄生虫が存在します。今回は、その中でも「外部寄生虫」が引き起こす疥癬症(かいせんしょう)についての話です。
疥癬症とは?
疥癬症は微小なダニであるヒゼンダニ類(主に食皮ヒゼンダニ:Chorioptes bovis)の寄生により起こる皮膚炎です。食皮ヒゼンダニは牛の表皮や皮脂腺の分泌物を摂食し、その一生を牛の体表上で過ごします。ある地域では、すべての農場の約半分に感染が認められ、陽性農場の個体の30%~100%と非常に多くの牛に感染があるという報告があります。(放牧と繋ぎ牛舎ともに)
主な症状
食皮ヒゼンダニは牛の尾根部、後肢上部、乳房上部に痂皮(かひ)(かさぶた)を形成し、強い痒みを引き起こします。写真のように、尾根部が脱毛し、痂皮のある牛がいたら、牛群が疥癬ダニに汚染されているサインです。しかし、病気という認識が薄く、放置されていることが多いという現状です。
生産性への影響
痒みのストレスというのは意外と強いもので、私たちの想像以上のストレスを与え、生産性(乳量、繁殖成績、免疫など)に大きな障害をもたらします。
痒みがあると
- 異常行動・・・舐める、擦り付ける、尾ふり
- 落ち着きがない
- 採食に集中できない
- 横臥時間の減少
- 反芻時間の減少
大切なのは予防
疥癬の駆虫は「プアオン製剤」(背中にかける駆虫薬)が主流で高い効果を示します。内外部寄生虫駆除剤の「イベルメクチン製剤」「エプリノメクチン製剤」や外部寄生虫駆除専用の「フルメトリン製剤」が有効です。
また、牛乳の出荷制限のないものなど様々な駆虫薬があるので、使用の際には一度獣医師にご相談ください。予防プログラムにより、生産性が大きく向上したという興味深い報告もあります。
まとめ
疥癬の駆虫により、皮膚の病巣は駆虫後2週間程度で改善し、痒みという症状に関しては迅速に効果が現れます。近年アニマルウェルフェアという言葉が注目されています。畜主は家畜の快適性に配慮し、ストレスが少ない環境で牛を飼養することが求められています。そのひとつとして、疥癬症の治療を積極的に実施しましょう。
駆虫薬の成分であるイベルメクチン、この開発を評価されて大村智先生が2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのは記憶に新しいところです。